VI 職場
1) 次年度出講打診時期
2) 専任教員との関係
3) 大学事務当局との関係
4) 紀要投稿の便宜
5) コンピュータ・インターネット・AV等の利用状況
6) 図書館利用について
7) 大学での控室、個人ロッカー、研究・授業準備室

1) 次年度出講打診時期
一番早かったところが10月 (22%)、11月 (29%) です (図VI-1)。早ければ早いほどもちろんいいわけですが、実際には大学側の作業からいって、この時期になるのは止むを得ないところもあるでしょう。しかし、一番遅かったところが、年が明けた1〜3月で23%あり、これは当人にとっては大変イライラするところです。なぜなら、年が明けてからコマ減や雇い止めが通知されても、もう他の大学で探すことはまず不可能だからです。従って、10月ころ迄に決まるのがやはり当然ではないでしょうか。

図VI-1 98年度における翌99年度契約の打診の時期(単位:件)
(一校のみ勤務の場合は「早かったところ」に記入)
6_01a
↑一番早かったところ
6_01b
↑一番遅かったところ

2) 専任教員との関係
 実は非常勤講師が最も苦労するのはこの点です。アンケートでは、専業非常勤講師で、特に支障はない (43%)、だいたい良好・順調である (23%) が多くを占めています。しかし、その一方で「うまくいかない場合が少しある」が21%、「うまくいかない場合が多い」が6%となっており、全体の三割弱という無視できない層が何らかの問題を感じているということがわかります (図VI-2)。
 それを裏付けるように、記述回答で最も多いのは専任教員に対する不満です。多くの人が、非常勤講師に対する配慮が足りないと指摘しています。大学や専任の都合で一方的に条件をおしつけられ、意見を言う機会もなかなかないことへの不満が表明されています。「専任教員に伝えたいこと」の記述回答は「VIII 自由記述より」をご参照下さい。
 支障なし、良好、順調という関係を保持するために、非常勤講師は専任教員に対して常に「良い子」になってしまいがちです。雇って欲しいという一念だけに全神経を擦り減らして一年一年を過ごしている非常勤講師の苦痛、悲哀が感じられないでしょうか。

図VI-2 専任との関係
6_02a 6_02b 6_02c
専業非常勤定年後型常勤職あり

3) 大学事務当局との関係
 専任教員との関係に比べて不満はいくぶん少なく、専業非常勤講師で「良好」と「支障無し」を合わせて83%に達しています。「うまくいかない」は全体で17%です (図VI-3)。自由記述ではいくつか具体的な指摘が出ています。例えば再試、追試の手続きなどで、無駄な労力を非常勤に負わせているケースや、事務連絡が雑だったり遅かったりというトラブル、当人に確認することなく住所や電話番号を学生に公表している、教材用のコピーが利用しにくい状況、半年の任用だと図書館が半年しか使えず非常に不便である、身分証明書を出してほしい、などです。
 また事務員の態度にかかわるものについては、「親切にしてもらっている」という回答も少なくありませんが、「ばかにされる」「いんぎん無礼な対応が多い」「何となく冷たい視線」「横柄で失礼な対応」「不愉快な思いをした」などの指摘が目立ちます。これについても「VIII自由記述より」をご参照願います。

図VI-3 大学事務当局との関係
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専業非常勤定年後型常勤職あり

4) 紀要投稿の便宜
 「うまくいかない場合が少しある」と「うまくいかない場合が多い」を合わせると専業非常勤講師では33%です。常勤職のある人では13%です (図VI-4)。「支障がない」が専業非常勤講師で半数ありますが、このなかにはそもそも紀要に投稿しようと思っていない人が多く含まれていることでしょう。
 具体的な記述では、非常勤講師は投稿できない・機会がない、という声がほとんどです。また、「書面の上で可能となっていても実際は断られることもある。特別のパイプにつながっている人以外は」「若い人のために将来のないあなたは遠慮して欲しいといわれた」などという人もいます。大学の学会が出している専攻別の学術誌や、記念論文集などでは (個人的なつながりで) 投稿できることもあるようです。京滋地区私立大学非常勤講師組合で行った京都4大学の調査によれば、京都産業大学では紀要への執筆可、立命館大学と龍谷大学では可能だが学会にもよる、同志社大学は不明となっています (巻末資料 4大私学の教学・労働諸条件一欄表をご覧下さい)。具体的な大学名を挙げて書いていただいた非常勤講師の紀要への投稿条件では、関西大学では、大学院の紀要には投稿できる、大阪産業大学・大阪電通大学では投稿できる、龍谷大学・関西大学・京都外大では投稿できない、とありました。非常勤組合の調査への回答にあったような「学会にもよる」というような回答では、できるんだかできないんだかわかりませんが、個人的なつながりで頼めば頼めるが、断わられることも多い、といった状況のようです。情報が不足しています。「専任は7ヶ月前から知らされているのに、自分は〆切3週間前に言われたことがある」「紀要投稿の機会があたえられているのかさえ知らされていない」「説明をうけたことがない」「投稿資格があるならある、ないならないと明示し、あるなら募集〆切予定期日、特集テーマの予定など、学部・研究所の一覧表を渡してほしい。ある研究所に口頭で申し入れたが実現せぬままである」といった声もありました。情報公開が望まれます。
 また「専任であればどんなものでも載せられるような紀要に論文を載せても大した業績にはカウントされないので別にどうでもよい」「"1〜5人しか読まない" といわれている紀要の現状では書く気は起こらない」といった声もあります。これはそもそもの紀要のありかた、ひいては大学のありかたを問題にしている声でしょう。

図VI-4 紀要投稿の便宜
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専業非常勤定年後型常勤職あり

5) コンピュータ・インターネット・AV等の利用状況
「うまく行かない場合が少しある」「うまく行かない場合が多い」を合わせた数が専業非常勤講師で33%です。常勤職のある人ではそれが28%ですから、専業非常勤講師より少ないとはいえ、常勤職のある人の中にも「うまく行かない」と感じている人はかなりいます (図VI-5)。
 まずコンピュータやインターネットの利用に関して、非常勤組合の調査では、非常勤講師に対して、京都産業大学・立命館大学・龍谷大学では、コンピュータのID取得可。同志社大学はID取得不可 (授業のみ可) となっています (巻末資料「四大学における労働・教学条件一覧」をごらんください)。記述では、「龍谷大学では、IDがもらえたり、講習会のお知らせがきたりしてとてもよいシステムになっています。同志社は非常勤にe-mailを使わせてくれません」「立命館大学では、IDはもらえるのですが、非常勤には全く知らされておらず、自分であちこちきいてまわって、ようやくもらえました」「パソコン・インターネットがどこで、どのような手続きをすれば使えるのか非常勤には案内がない」といった声があり、IDがもらえるかどうか、連絡が徹底しているかどうかなど、大学によって状況がずいぶん違うようですが、すべての大学で連絡を徹底し講習会なども実施してほしいものです。最近、コンピュータ関連の講習会の対象者が「専任教員だけ」となっているものを見かけました。そのような了見の狭さを見るととても悲しく腹立たしく思います。
 IDが取得できたとしても、大学の学生用のコンピュータ室は常に混雑しています。授業前にちょっと調べたいことがあっても、コンピュータ室に入るのに10分並ばなくてはいけないのでは、そう気軽に利用できません。コンピュータを使っている人は、自宅で使用している人が圧倒的に多いようです。「コンピュータ室は学生の授業が多く入っていて、私の空き時間とタイミングが合わない」「控室にパソコンを設置して、図書の検索などができるといい」といった声もあります。「IV収入支出」と重なることですが、専任の場合は大学の自分専用のパソコンを公費で購入できることも多く、インターネットもLANで自由に使えますが (大学によっては専任にとっても不備の多いところもあり)、非常勤では大学では学生用のコンピュータ室を使えるだけで (それすら使えないところも多い) 自宅のパソコンは全額自費で購入ということになります。自宅でインターネットをするならその通信費もすべて自前です。
 授業関連の機材の利用に関しては「龍谷大学でOHCが故障がち、奈良大学にOHCを設置してほしい」「オーディオの機材が古くて音が悪い。コンピュータよりも音声機器の充実が先だと思う」といった設備の不備に関する意見と、「機材の利用はすべて自分でやらねばならない、たまたまできるからいいようなものの、難しい機器を使いたいときにフォローがないと授業に支障をきたす」「ビデオを前の時間に利用した人が、きちんと使える状態に戻してなく、それを知らずに使用してうまく行かなかった。使用方法の不徹底」「コンピュータ教室の使用方法など、毎年きちんとレクチャーしてほしい。授業中も何かあったときはサポートできる体制を作ってほしい。せっかくの設備が十分活用されていると言えないのは大学側の責任である。(産大)」といった使用法の説明の不十分さを指摘する意見がありました。
 また「授業で使用するビデオを編集しようと、授業終了後、視聴覚室へ行ったが、学生が使用中のため使えなかった。その学生が終わるまで待つと言ったが、5時以降まで学生の予約が入っていて、5時以降は職員が帰るため使えないと言われた。他の日は他校での授業があるので、次の週の授業開始前 (9:20開始)、使わせてもらいたいと言ったが朝も9時以降しか使えないと言われた。」という意見にあるように、一応大学の設備が使えることになっている場合も、時間的に使えないことも多いのです。しかたなく教材作成用のビデオデッキやオーディオ機材を自前で購入した人も多くいますが、もちろんそのような場合にも全く公費は出ません。

図VI-5 コンピュータ・インターネット・AV等の利用状況
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専業非常勤定年後型常勤職あり

6) 図書館利用について
 大学が研究・教育の場であるならば、研究・教育にとって、図書館利用が不可欠であることは、いうまでもありません。また、専任と区別なく授業に責任をもつ非常勤講師が、授業用レジュメのコピー以外一切の研究・教育費が、大学から与えられなく自費でまかなわねばならないのですから、研究・教育に必要な図書やビデオなどをせめて公的に大学図書館で購入してもらいたいと願うのは、当然のことでしょう。それは、表VI-1に示したように、「研究用図書の購入希望」や「図書の長期貸出」がそれぞれ、41%,32%と高率になっていることにあらわれています。
 記述欄にある図書館利用そのものについて上がっている意見は、大学によって、相当な違いがありますが、非常勤ゆえに限定されていることへの不満が多くみられます。とりわけ、重大なのは、最近増えてきたセメスター制により、半年の授業が多くなり、それにあたる非常勤講師の図書館利用も半年に限定されるというものです。そのため、わざわざ、5万円支払って院の聴講生になって、残り半年の図書館利用を確保している人もいます。また、非常勤講師ゆえに、「相互利用」(他大学の図書を借りたり、他大学の図書を部分的にコピーしてもらったりする)ができない、授業に使うビデオの貸出ができない、また、書庫の個室を専任や院生には利用させるが、非常勤講師には使用させない、というのもあります。
 書籍の購入希望については、教育に関するものしか認められない、専任以外には専門雑誌の購入は認められない、希望を出してもなかなか認められずあきらめていつも自腹を切る、購入許可が降りても手元にくるのが遅くて結局自分で購入してしまう、という意見があります。授業に必要な研究書やビデオぐらいは、是非購入して欲しいというのは切実です。ある大学では、新聞のコピーもままならないようです。
 同僚である専任教員の個人研究費が年間何十万円と付き、さらに国内・海外留学が認められているのと比べて、あまりにも、ささやかなものといえる図書購入でさえこの状態です。このような事態が、それでなくても差別と貧困の中にある非常勤講師がただひとつ死守しているといってもよい研究・教育意欲を喪失させ、ひいては、張りのない授業を引き起こしかねないことは、いうまでもありません。

表VI-1 大学図書館に特に不便を感じていることがありますか (専業非常勤講師;複数回答)
パーセントは有答者に対する割合 (単位:件、%)
研究 (授業内容向上のためを含む) 用の図書の多冊数の貸し出し1419.7%
研究 (授業内容向上のためを含む) 用の図書の長期の貸し出し2332.4%
研究用の図書の希望購入2940.8%
受講学生のための指定図書の購入配架45.6%
その他1622.5%
有答数71 

7) 大学での控室、個人ロッカー、研究・授業準備室
 先ず講師控室というものがどんなものか、説明しましょう。講師控室というのは、非常勤講師の大学でのいわば居場所のことをいいます。たいていの非常勤講師は、ここに授業にかんする教材やプリントなどの荷物を置き、時にはそこで印刷をし、そこに配属されている職員に様々な授業に関することを聞き、またお願いする。大学からの文書もそこにあるメールボックスや職員を通じて、控室で受け渡されます。私物を含めて授業にかんする一切のものの置き場所でもあり、昼食や飲み物をとる休憩室でもあり、印刷・連絡事務室でもあり授業準備室でもあります。授業時間中は出払って職員以外誰もいませんが、授業が終わる度に10分間か大学によっては15分間の休憩時には、ほとんどの非常勤講師が教室から戻るので、相当に騒がしく、あわただしくなります。この空間は、非常勤講師を多く抱える大学では、1教室ぐらいか、それよりも大きいぐらいのものです。小さいばあいは、学部に分かれていたりします。そこにあるものは、机ではなく、ソファや大きなソファのようないすです。これがいくつも、所せましと並べられています。机は、端に少し置かれている場合がありますが、いつも、だれかが席を占めていますので、そこは、遅く行くと満員です。椅子や机は、使う個人が決まっているものではない共用で、ロッカーは、あっても共用という場合が多いのです。多くは、お茶,インスタント・コーヒーなどが設置されていて、無料で自由に自分でいれて飲めます。また、手を洗う洗面台もついています。大学によって異なりますが、メールボックスやロッカーが壁面を占めています。
 このような雑然として、なにもかにも非常勤に関することは全部ここに押し込められているというのが、この講師控室です。
 こういう状況のなかで、切実な問題は、表VI-2にあるように「道具や書類を置くスペース」や「研究できる空間」の要望ですが、それぞれ7割、4割占めています。この設問では、具体的にわかりませんので、記述欄から拾い上げてみましょう。大学によって様々ですが、メールボックスや個人ロッカーについては、「ロッカーがないので、授業ごとに大量の荷物を旅行カバンにいれて持ちはこびしている」「ロッカーがないので、たえず男性の目にさらされるような場所のダンボール箱に私物も含めていれて置かねばならないのがつらい。」「控え室ではさわがしく授業準備ができない」「印刷・コピーが自由に自分でできるような設備がほしい」「控え室を禁煙にして欲しい」「ロッカーもないのに控室にものを置くなといわれている」などがあります。もうひとつ切実な問題に、研究室の問題があります。個人研究室とはいわないまでもせめて静かなブースのような空間がほしいというものです。控室は最初から、休憩・談話室として設定されているものなので、さわがしくて研究や授業準備はできないからです。と同時に、大学非常勤講師特有の困難さとして、それでなくても、狭い住宅にしか入れない身分なのに、住宅が本に占領されていて、自宅では、充分に研究場所がとれない事があります。専任の場合は、多くは自宅に研究部屋が有り、加えて大学に研究室があるので、そういう不自由さはほとんどありませんし、大学院でも、最近では事情が違ってきているとはいえ、研究室があるので、大方の本はそこに置くことができます。院生から専業非常勤講師という身分におちいったとたんに、研究者としての環境ははぎとられ、非常勤講師が共同でつかう研究場所さえ提供されることはほとんどない状況です。ある人は、こう書いています。「日本に1冊しかないような本が山のようになって、子ども部屋が取れません。布団をしくのも大変なぐらいです。」「控室がほとんどソファで研究には不向き。授業の合間も貴重な研究時間である。せめて、だれでも利用できるブースかボックス空間がほしい。」「夜おそくまで授業準備のできる準備室が欲しい」。
 非常勤講師が存在しなければ授業のカリキュラムが組めないのが私学であるにもかかわらず、そして最近は郊外の広い敷地に移転して外見上ギリシャ建築かと思えるようなすばらしい校舎を建て、芝生や樹木やベンチの設置、それに校地の舗装などにも余念がないほどに手をいれている私学もあるようですが、非常勤講師には、教材やプリントを安心して置ける個人ロッカーやメールボックス、それに研究や授業準備さえまともにできる部屋を、ほとんど設置していないのが実情です。

表VI-2 研究する場所・授業のための教具の置場所で大学に望むことは (専業非常勤講師;複数回答)
パーセントは有答者に対する割合 (単位:件、%)
研究できる空間3939.8%
大学で道具や書類を置くスペース7273.5%
その他55.1%
有答数98 

「専業非常勤講師」
=「大学非常勤のみの人」大学での非常勤講師だけを仕事としている人
+「予備校等兼職」大学非常勤以外に、予備校、専門学校、高校、塾等で非常勤の仕事を持っている人

「定年後型」
= 大学等を定年退職した後に、大学での非常勤講師をやっている人

「常勤職のある人」
=「大学専任」大学での専任教員をしていて、大学での非常勤講師もやっている人
+「大学外常勤」大学以外での常勤の仕事 (ジャーナリスト・弁護士等) があり、大学での非常勤講師もやっている人