「大学非常勤講師の実態と声」刊行にあたって
京滋私大教連執行委員長 石井幸三

 この小冊子は、京滋私大教連傘下の非常勤講師組合によってなされた、主として大学・短大で非常勤講師をしている人々を対象としたアンケートの集計・分析、検討を掲載したものであります。大学・短期大学におけるいわば「専業非常勤講師」の研究・労働条件の悪さは、社会的に周知の事柄になっていますが、このたびのアンケートは、部分的には周知になっていた事柄を総体的なものにし、かつ客観的な事実でそれを裏づけたことに大きな意義があります。
 自由記述欄にあるように「日本の高等教育の惨状を象徴するのが、この非常勤問題だと思っています」 と書かれた文章を読むと、非常勤組合の要求が個々の非常勤講師の立場の改善だけでなく、日本の高等教育の改善を考えなければならないことがわかってきます。確かに、自由記述欄に率直に書かれているように、専業非常勤講師と常勤職ありの非常勤との意見の相違もあります。このような意見の相違は、お互いの立場をもう少し客観的に理解して欲しいという希望から発していると私は考えます。お互いの立場を理解し合うことから、私立大学・短期大学の教職員は、常勤職のあるなしに関わらず、教育労働者としての教員の在り方、そのための必要な地位向上の方策が、論議の俎上にあげられその実現に向かって共闘が可能となります。この意味では、多くの大学関係者にこの冊子を読んで、考え、論議し行動を起こしていただきたいと思います。
 ここまでは、無難なことを書いていますが、私見を2つ書きます。私立大学・短期大学の現状では専任教職員の削減はあっても増加は見込みは少ないでしょう。その中で、より充実した教育をなしていくには、高等教育が国立、公立、私立といった設置の主体を問わず公共の (public) 教育を担っていることを認識し、1966年の国連人権規約A規約第14条の「高等教育の無償化」 (日本政府留保) や1998年10月採択されたユネスコの「21世紀の高等教育に向けての世界宣言:展望と行動 」を基礎にした高等教育に対する公費助成の運動を進めていく必要があります。
 第2に、アンケートに協力していただいた多くの非常勤講師の方にお礼を申し上げなければならないのと同時に、非常勤講師の制度と地位の改善のためには、一人でも多くの方に非常勤講師組合に参加していただきたいということです。組合に参加すると今後の自分が不利になるのではないかと懸念される気持ちはわかります。しかし、躊躇することが現在の地位を再生産し続けることも事実なのです。常勤のある大学教員、常勤のない大学教員、そして (非常勤を含めての) 大学の職員が、教職員組合に結集して、これからの (地球) 市民を育てるにはどう教育しその制度やカリキュラム、教職員の地位はどうあるべきかを早急に考えていかねば、上からのリストラに身を任せるということになってきます。
 最後に、文字通りの困難な状況の中で、このようなアンケートを実施、集計、分析、検討、文章化、印刷、校正までやり遂げられた組合および組合員に京滋私大教連の委員長として心からねぎらいの言葉を送りたいと思います。さらに、このアンケートで提言されている非常勤講師の地位改善要求が、多くの人々の共感の中で出来るだけ早く実現するように、京滋私大教連は希望すると同時に協力・共闘していきたいと考えています。


アンケート実施の経過とお礼
京滋地区私立大学非常勤講師組合執行委員長 福田拓司

私たち京滋地区私立大学非常勤講師組合は、結成以来同志社、立命館、龍谷、京都産業の四大学と交渉を重ねてまいりました。そうした活動の中で私たち非常勤講師の仕事や生活の実態、実感が一般社会はもちろんのこと、私たちを雇っている大学当局や専任教員などの関係者にも、ほとんど知られておらず、改善すべき問題として認識されていないことを痛感いたしました。それは当事者である非常勤講師自身が、1年後の雇用の見通しが立たないという、極度に不安定で弱い立場にあるため、理不尽な状況におかれながら声をあげることが非常に難しいという状況が長年続いてきたことによるものであり、大学は、言葉は悪いですが、その弱みにつけこんで、都合よく非常勤講師を使い捨て、問題の所在を顧みることがなかったと言えるのではないでしょうか。
 このアンケートは私たち非常勤講師組合が加盟している京滋地区私立大学教職員組合連合のご尽力と経済面を含めた全面的ご協力によって実現しました。問題の所在を広く認識してもらう非常勤講師のおかれた過酷な状態を改善するためには、まず実態を明らかにするための調査を行う必要がありましたが、不安定で多忙な仕事に追いまくられ、時間も資金も乏しい非常勤講師の集まりである当組合単独では、それを実現させることは不可能だったと思います。
 アンケートの項目の設計は主として非常勤講師組合に任され、1999年1月末頃から、幾つか準備草案を作りはじめました。1999年度書記長が精力を注いで作成された草案が基本となり、加除や細部変更はありましたが、最終案まで其の骨子は引き継がれました。
 2月の執行委員会から6月中まで、非常勤講師組合執行委員たちの討議と、京滋私大教連執行部の意見とにより次第に最終案に近づき、夏休み前にアンケート項目が完成しました。
 印刷が出来て実際に配布をはじめたのは11月にずれ込みました。回答依頼文一葉と返信封筒もつけ、5000部印刷し、2000年1月末を締め切りとして、配布を開始しました。配布の方法は、京産大・龍谷大・同志社大・立命大の講師控室のメールボックスへの投函、デスク上への山積み、などによるもので、私大教連傘下の諸大学の労組にも協力していただきました。また阪神圏大学非常勤講師労働組合にも協力を求め100部ほど送りました。
 2000年2月初頭で188通返送がありました。しかし、なお私大教連や非常勤組合執行委員の手元に500部ほど残がありましたので、再度の締め切りを2月末として主に郵送で配りきりました。
 その中には日本音楽家ユニオン関西地方本部の協力 (150部) と造形芸術家貴志カスケさんの紹介による協力 (約10部) が含まれています。美術・音楽の領域は非常勤講師依存率が最も高くかつもっとも賃金が低いのですが、なかなか講師の声が届いてこない分野でしたが、これによってなにほどか声が聞かれるのではないかと期待されます。また女性学教育ネットワークにお願いして会員中の非常勤出講されていそうな方々 (約20部) にも送らせていただくことができました。
 こうして回答数は3月8日まで最終的には277となりました。
 アンケート原票のデータベースへの入力は、業者に発注し、3月中には納品を受けましたが、業者が入力の判断に迷ったところが多くそれの処理と、データの集計法に時間が必要で、前期授業が始まると非常勤講師は時間の余裕が無くなるため、 集計作業は夏期休暇にずれこみ、年度末の時期になって、ようやくまとめの作業が完了しました。その後、自由記述の処理などに予想外の時間がかかり、2001年7月発行となったという次第です。
 以上のような事情でずいぶん遅くなってしまいましたが、報告をまとめることができました。このような規模での非常勤講師の調査は全国ではじめての試みではないかと思います。この貴重な報告を、今後の対大学交渉をはじめとする組合活動に役立てていきたいと考えております。
 全面的にバックアップして下さった京滋地区私立大学教職員組合連合に、そして配布にご協力いただいた各大学教職員組合、日本音楽家ユニオン関西地方本部、造形芸術家貴志カスケさん、女性学教育ネットワークに、そして最後に時間的にも経済的にもゆとりの乏しい中、アンケートの意義をご理解下さって、貴重な意見をお寄せ下さいましたすべての回答者の皆さんに、心より御礼申し上げます。