「専門学校」の現況

大沢裕司

 いまや,18歳人口に大学・短大と比較検討される進学先になっている専門学校で,14年目の専属非常勤をしながら観察した概要です.
 客観的調査とはいえない,憶測を交えた覚え書き程度になっている点は,あしからず御了承下さい.

1.制度上の「いわゆる専門学校」の位置づけ

 戦前から存在していたいわゆる「専門学校」が,高等教育機関として正式に制度化されたのは,学校教育法第82条において「専修学校」制度が明示された'76年のことです.
 同法は,専修学校というカテゴリーをさらに(1)高等課程―中卒者以上が就学―,(2)専門課程―高卒以上が就学―,(3)一般課程―学歴不問―に分類しています.こんにち高卒者が進学の際の選択肢とするのは(2)で,この「専門課程を持つ専修学校」を,一般的に専門学校と呼んでいます.
 専門学校は,長らく,大学,短大への進学の「滑り止め」進学先として認知されてきた感もありますが,制度上はまず'83年の法改定で,3年制専修学校卒業者に大学入学資格が与えられました.これは医療系専門学校卒業者に大学レベルの教育を行なうための条件整備の一環かと推測されます.
 教育分野における漸進的規制緩和政策の一環で,'94年には専修学校設置基準が一部改定され,授業科目に関する制約の廃止(具体的には,秘書実務や診療報酬請求事務といった実務を,学問の履修として扱い単位認定できる),短大や大学との履修乗り入れと単位互換容認,昼夜開講の奨励と教員資格の弾力化などが打ち出されました.
 専門学校生の制度上の処遇も整備され,'95年には「2年以上」「1700時間以上」「試験による卒業判定」という条件のもとで履修した卒業生に「専門士」の学位を認定することが決まり,'99年には,2年課程専門学校卒業生にも大学編入が認められました(受け入れ側としては編入を認めていない大学もあります).
 つまり,制度上は,短大に準じる学位授与機関として位置づけられているといえます.

2.現状

2-1 高等教育分野における専門学校のプレゼンス

 文部科学省「平成14年度学校基本調査速報」で在学生数を見れば,大学(一部・二部含む)248.7万人,短大(本科,専攻科含む)28.9万人に対して,専門学校は76.6万人(男子34.9万人,女子41.7万人)で,専門課程に限っても66.0万人に及びます.つまり,学生規模において短大の2倍以上にのぼっています.
 学校数は3,467校,設置者を大別すると,ほぼ国公立1に対して私立10の割合です.
 専門学校生に占める女子の割合が高いのは,1つには看護学生という進路が昔から多かった経緯もあり,分野別在校生の統計によれば,医療26.8%,文化教養20.8%,工業(土木,建築,化学,加工等)17.0%と続いています.教育・福祉分野は8.4%にとどまっていますが,今後の内訳はゼネコンの冷え込み,製造業の空洞化,高齢化等に伴い,「人気分野」はドラスティックに変化して行くと思われます.
 「高卒者の進学先」という面から見ると,大学学部・短大本科が58.5万人(進学者全体の44.6%),専修学校専門・一般課程が35.6万人(同27.0%)となっています.
 近年の就職難で,(教養より)「就職に有利な訓練教育」を求める風潮が高まり,他方では短大生や大学生の「ダブル・スクール」需要にも見られるように,短大や多くの大学を凌駕する「就職力養成機関」になっているのではないかと思います.

2-2 経営方針(概観)

 就職のための人材育成が至上使命で,実学指向・資格取得対策が,ほぼ全ての専門学校に共通するコア・コンピタンスといえるでしょう.
 そのため,雇用される講師も「研究者」タイプより「業界人」が優先採用され,「学会出席のため欠勤」などはマイナス査定になりかねません.
 就職率,資格試験合格率,中退率等の数字が専任・非常勤講師を共通して管理しています.

2-3 財源

 大学に比較して,経理情報の開示は著しく遅れているため詳細は不明とはいえ,補助金,助成金,入学試験料収入の少なさは大きな特徴で,そのため収益の学費依存度が高くなっています.
 近年,関連事業,委託(受注)事業へと業務拡大を画策する学校も増えており,一例として,ヘルパー養成講座の開講(都道府県からの委託),ケアマネージメント事業,医療・福祉等の現任者への再教育等の事業があります.
 また高校や大学への講師の派遣も増えており,情報処理,外国語,各種の受験対策等を請け負っています.
 就職指導の実績や業界とのパイプを利用して人材派遣業を関連事業として新設する学校事業者もあります.

3.労働実態

3-1 採用基準

 業界就労経験,学位,資格のいずれかがあれば採用されます.極端な例では,任期途中で突然退職する講師のピンチヒッターで即決採用される場合も少なくありません.
 大学名誉教授が経営している学校だと,研究業績を評価する採用規定もありますが,概して研究歴より教育スキルが圧倒的に重視されており,新卒者や新規就労者へ独自に教育研修を受けさせる学校もあります.毎年1回以上,学生へのアンケートにより講師の教育スキルを評価し雇用に反映させるのは常識化しています.言葉遣い,姿勢,板書方法,成績評価方法,学生との個人的交渉など,細かくマニュアルで規定されています.その内容と人事考課項目との連動は一様ではありませんが,今後の一般的傾向として,管理がより細かくなると予想されます.

3-2 契約関係

 口頭,書面での雇用契約を結ぶのが慣例ですが,「業務委託契約」が増加しています.
 雇用契約ではないため,労働法が適用されない=労働者としての権利主張をさせない点が狙いかもしれません.
 1年に満たない前期のみ・後期のみの細切れの短期契約も多く,人材の調整弁という使われ方が自明化しているのが現状です.→後述

3-3 非常勤講師の職責

 概して,常勤講師は実習指導,就職先との折衝,高校営業など外勤に追われており,非常勤講師は専ら比較的小規模なクラス(40名程度)への

・資格試験科目に合格するための指導と模擬試験作成ならびに評価
・就職に有利な(?)教養教育と評価

が主たる業務です.タイムカードによる出勤管理も自明で,10分以上の遅刻や早退から懲罰対象になる学校が多いようです.

3-4 給与

 学校によって,また採用年次によって差はありますが,現状としては「1コマ90分で3000円〜10,000円程度」の水準にほとんどの講師が分布していると思われます.日給月給での振り込みで,春季・夏季・冬季休暇中は無給になる点が大半の専門学校に共通しているはずです(年俸を月割で受け取っている講師は聞いたことがありません).社会保険は全額自己負担です.
 前期15週,後期15週で年間30週担当したとして,1コマあたり課税前年間所得は上記賃金相場から算出して90,000〜300,000円になります.
 私が,英語学校を全国展開するグループ傘下の学校法人Y学園(大阪市)に,'89年に全日制の非常勤講師として採用された当初は,60分あたり賃金4,000円(学士で3500円〜でした),10年勤続でやめたときに4,700円でした.学生数は,多いクラスで40名,学生激減期には5名程度です.この時期には,時間給2500円で講師求人広告を出していました.
 大学等に比較して,同一職場で複数のクラスに同一または類似科目を横断的に教えることが多いので,「薄利多売」で生活費をかせぐという就業スタイルになります.しかしながら,コマ数上限は,全日制課程において週5日で20コマにすぎないため,1コマ5000円と仮定してコマ数上限いっぱいまで授業を担当した場合(ありえないが)でも,年収は税込み300万円にしかなりません.
 休暇中や契約時間以外の兼業は自由(禁止できる根拠になるほどの生活給が支払われていない)なので,副業をしている非常勤は常態となっています.「競合関係にある別事業所での副業禁止規定」は,一般的な雇用労働では合理的な懲戒理由になっているようですが,専門学校の非常勤兼任においては表面化していないだけなのか,今のところ懲戒事例は聞いたことがありません.

4.問題点

4-1 給与ベースの低さ

 3-4で指摘した通り,基本給の低さは「生活維持」レベルにとどまっており,図書費や学会諸経費等は自前で負担しながら,授業の質の向上を苦心しているのが専門学校非常勤講師の現実です.この点では,大学等の非常勤講師と似ているかもしれません.
 研究業績は,評価する学校と評価しない学校があるようで,予備校的な学校であれば授業が顧客に与える満足度と合格率のみが講師評価の規準で,職業人教育を重視する学校では,学会や研究会,出版等の社会的活動を評価するところもあります.

4-2 雇用として位置づけられていない労働関係

 おそらく,この奇習が違法性を問われる論点になろうかと思いますが,「使用従属性のある定期的役務提供」であることは疑いもなく,小・中・高校・大学の教職と同様,実質的に雇用関係にあると推定されるべきですが,雇用契約書を交付しない学校が近年増えているようです.
 このタイプの学校は,雇用契約の代わりに,「業務委託書」を交付して署名捺印させる形になっており,非常勤講師はあたかも「ゲストスピーカー」という扱いで,賃金は「ギャラ」です.つまり発注者と受注者という関係であり,対等な労使関係とはいえません.
 雇用関係でない以上,当然有給休暇の規定,労災の処遇も書面になく,労働基本権など埒外に置かれています.現状では組合活動,組合広報等まったく入り込む余地のない職場環境といわざるをえません.
 企業や福祉・医療機関の第一線にいる現職のプロを招いて学生の動機づけを図ることを事業の基本理念にしている学校だと,この「業務委託スタイル」は当然と認識されており,異論を口にする同僚は今の職場では察知しえません.非常勤講師が主要科目の授業を行ない,どうしても充当できない場合や長欠した場合に常勤講師がピンチヒッターに入るという形が常態化しています.
 しかし,専任講師によるカリキュラム編成が,人事権を派生させているのが現状です.
 ここから,「契約の一方の当事者である学校法人としては雇用―あるいは業務委託―を継続しているが,担当科目の割り当てがないに等しく実質的に解雇同然」というケースも多発しています.結果的に,新年度間際になって職探しをせざるをえず,解雇ではなく「自己都合による退職」という形になる例が多いようです.
 前年度に比較して大幅にコマ数が減るような契約更新は厳しく糾弾するとともに,その合理的説明を要求する必要もあります.そもそも,対等な契約が締結されず,採否の基準も明らかにされていない学校に対しては,まず労働者としての位置づけを求めて行くことが前提課題になります.

4-3 雇用の不安定さ,雇用継続条件の不透明性

 身分の不安定さという点では前節と関連しますが,次年度の就労が予測できない点は最大の不安材料です.
 Y学園のように,11月頃に次年度の就労意向調査を行なう―採用予定ではないという但し書き入り―学校は,まだましな方で,J学園の例で「来年度もよろしく」と口頭で教務責任者から言われて準備していると,3月になって「ゼロ」と告げられたこともありました.
 こうした先見性のない人事には,担当者の無知に加えて,背景要因もあります.大学や短大によるAO入試,推薦入試,3月末までの数次にわたる入試といった学生集めの諸策,授業料前払いによる入学予定者拘束が近年の消費者運動の中で難しくなっている情勢,等々から,次年度の入学者数が特定しにくく,開講クラスが決まらないという事情もあるようです.
 とはいえ,非常勤講師の立場にしてみれば,市場動向や経営の難しさを慮って権利主張を自粛する義理はないわけで,「年度末での当然の契約終了」ではなく,

・年末までの翌年度打診
・全般的採用計画の開示(その中で,既存の講師の処遇についても意向を表示すべきである)
・契約を更新しない場合,合理的理由を開示すること

が要求項目になると思います.

4-4 短大,四大の専門学校化

 大学の専門学校化が話題になっていますが,これは就学世代に限らない傾向で,学習成果を形として評価されたい気質ゆえか,資格取得が,学生個々のモラールはおろか,社会から見た学校の評価―資格をとれるカリキュラムがどれだけ品揃えされているか―を,大きく左右しているかのようです. 思索や議論やリサーチより,「作業」に対する単位・資格の認定という条件づけが学生を支配しているといえます.暗記作業に追われるという次元以前に,出席するだけという学生も一定割合おり,学校も出席の奨励と評価(出席を点数化して単位認定に加味する)を行ない,個々の講師にも一律に協調を求めます.専門学校の正規課程で出席を管理しないクラスはなく,学生も出席を点数評価するよう要求します.
 大学が教養教育を軽視してきたのか,学生が教養離れしているのかは,より踏み込んだ因果分析が待たれるところですが,大学・短大でも「学術的」な高説講義が敬遠され,「楽しく・実益に結びつくレッスン」へのニーズが高まるにつれ,専門学校で「顧客満足度」評価に揉まれた講師の派遣―外注営業―は増加しつつあります.専門学校が一律に好調だということではなく,研究機関というよりサービス業としての意識が教育事業の経営を左右する「新しい現実」です.
 基礎研究の危機,教養の崩壊,ホワイトカラーのブルーカラー化といった傾向は,長い目で見れば社会的損失につながること必至ですが,専門学校的ニーズをかかえた学生によって多くの大学の経営が成り立っているのが足元の現実です.そして,18歳人口だけを対象にしている限り,100万人程度の限られた顧客を奪い合う時代は目前です.そうなると従来の大学・短大の「知の様式」は否応なく変わらざるをえず,近未来まで視野に入れながらの雇用の確保を訴える必要もあると思われます.

『ネットワーク』第11号 (2003年6月12日) 掲載